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黒子は教室にバッシュを忘れました
紫原の可哀想は桃と紫と黒と青、全部に対して
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何を考えているかは分からない
だが、いつも素直で、自由
だから、嘘なんかきっとつかない
いったこと、しでかしたことは全て彼の真実なんだと思う
【夕日を背負う子どもたち】
夕暮れの教室
部活の時間であるにも関わらず桃井が立ち上がれないでいたのは
相変わらずの幼馴染の身勝手な振る舞いに辟易してのことだった
嫌いなわけではない、ただ、今顔ををあわせるのが嫌だ
そんな思いが桃井を縛っていた
中学生にもなって、子供みたい、と思いながら
あえて頬を膨らませてみる
誰もいない教室
少女らしくない行いを誰も咎めず、誰も笑わない
桃井は息を吐いた
そのときガラガラと教室のドアが開いた
「さっちん、何してるの?」
「わっ、ムッくん」
「部活。はじまってるよ」
「…ムッくんこそ遅刻だよ」
痛いところをつかれて桃井は言葉につまりながら
一言、一矢報いる気で紫原に言葉を返した
しかし、当の紫原は何も気にしていない様子でうなずく
「昼寝してたら放課後になってたんだ」
「あ、そう…」
「峰ちんと何かあった?」
「え、なんで」
「さっちんが落ち込むの、それしかないから」
そんなことないよ、と桃井は返すことができなかった
図星であった
安いゴム製の靴がきゅ、きゅ、と鳴って紫原が歩く
荷物を取るのかと思いきや、彼は迷わず桃井の元へ歩み寄った
窓から差し込む夕日で紫原の髪の毛が僅かに色を変える
高い位置から見下ろされて、桃井は立ち上がった
そうでなければ首が痛いし、よく見えない
「さっちんは何で峰ちんのこと好きなの?」
「えっ、いや、なんでっていうか、そもそもスキとか、」
「何でかな…。俺、さっちんが何考えてるか良く分かんないんだよね」
「それはこっちのセリフよ。私だってムッ君が何考えてるか分かんないもの」
「そうなの?俺分かりやすいと思うけど」
「分かんないよ、ぜんぜん」
紫原は少し視線を落として考えた
長い睫毛を桃井は見た
「…俺は、いま、さっちんのことを考えていて…」
「…うん、…?」
「…さっちんが、峰ちんのことで、悩まなければいいなって、思う」
「ムッ君…あ、」
ありがとう、と言おうとした言葉は、桃井の言葉は
紫原に無理やり掻き消される
「だから、苦しいときは助けてあげるよ」
腕をつかんで
ぐっと引き寄せると、身構えていなかった桃井の体は転がるように前へ出た
紫原はそれを正面から受け止める
紫原がバランスを崩すことはない、そのような柔な体のつくりはしていない
勢い良く抱き寄せた割には、まるで元からそこにあるべきであったかのように
桃井の体は紫原の腕の中に収まった
「…ムッ君?」
「俺が何考えてるか、分かった?」
桃井はそれに答えない
しばらく、沈黙する夕日が教室を支配する
ようやく桃井が吐き出した声は悲壮だった
「…ムッ君、ぶかつ…、部活、行かなきゃ」
「…そうだね」
紫原が腕を解くと、桃井はするりと夕日と教室と紫原から逃げ出した
ゴム靴の足音が遠ざかって行く
その足音が消えるまで紫原は微動だにしなかった
足音が聞こえなくなって、別の足音が聞こえて
紫原は静かに視線を動かした
「悪趣味じゃない?」
「紫原くんに言われたくありません。桃井さんが青峰くんを好きなのは誰が見ても明らかなのに」
「だって、峰ちんひとりがさっちんのおっぱいを独占するの、ずるくない?」
「はぁ…、そこは僕は分かりかねます」
黒子はすたすたと自席に向かい、
机の右側にかかっている布袋を拾い上げると踵を返した
一度立ち止まって振り返る
窓に背を向ける紫原の顔は、逆光でよく見えない
「紫原くんが桃井さんをどういう形であれ大事に思っているのは分かりました。
でも、伝え方が桃井さんに分かりやすいものではなかったと思います」
「そう?俺は峰ちんよりは分かりやすいと思うけど」
「青峰くんは桃井さんにとって規格外ですから、いいんです」
「ふぅん…?ずるいなあ」
紫原は、きゅ、と靴のかかとを鳴らして踏み出した
「部活、行きますか?」
「行かない。可哀想だから」
教室を出て行く紫原の背中を黒子は見ていた
赤い赤い夕日を背負う彼の姿はすぐに見えなくなる
彼も、赤い夕日を背負う桃井を見たのだろうか?