青山OL期間が ~6月30日 になりました
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転送装置の一歩手前で陽一は管理人を振り返った。黒スーツの男は首を傾げて促す。陽一は少し考えて、管理人を見て、言った。
「自分が生きてきた道が良いとか悪いとか幸せとか不幸せとか分からない、けど、ここで立ち止まるより生きたいと思う。人生やり直せなくても、今までの記憶がなくなっても、知ってる人誰もいなくても、自分が別の誰かになって、あるいは人間じゃなくなっても、それでもいいから生きたい。生きるって自分が自分であることも大切だけど、でも自分が自分じゃなくなったってその時の自分を大切にすればいいし、ていうか言っちゃえばひとりの人間として生きてたときも、好きなもの変わったり興味持ったりなくしたり勉強したこと忘れたりとか、俺は毎日変わってたんだと思う。ひとりの人間で有り続けることの定義なんて知らないし、大事なのはそういうことじゃなくて、自分は自分とかじゃなくて、生きるってことなんだと思う。…意味分かる?」
管理人は肩をすくめて分かりませんね、と返した。黒い目が笑う。
「でも、分からないけれど、羨ましく思います。あなたは大事なことを見つけたし、前を向いている」
その笑顔はまるで夏の日陰の黒さのようだった。明るい日の、少し暗い部分。美しい1日の中にあって落ち着きを失わない穏やかさ。
「うん、俺がんばったし」
「自分で言いますか。…さあ、もう行って下さい。あなたが手にしたものは無形の悟り。忘れたり、邪念に蝕まれる前に」
その言葉に陽一は明るく笑った。若さの溢れる、真夏の太陽そのもの。
「大丈夫だよ。これはずっと俺の中にあったし、俺はずっとこれの中にいた。なくしたりとかできないものだし、なくしたと思ったっていいんだ。大事なことはそういうことじゃないんだよ」
そう言って陽一は一歩を踏み出して消えた。
「…やっぱり分かりません。そして羨ましい」
管理人はひとりごちた。太陽をなくした影はただの無に戻り、やがて誰かの影になるまで存在しない。
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