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みちゃだめー!
本当にじぶんを好きなのか?
好きというのはどうしたら好きなのか、どこからどこまでが好きなのか?
じぶんは好きなのか?他の人と同じように接している気がする
「敦、おはよう」
「…ん、」
「眠いの?コーヒー飴食べる?」
「…る」
飴玉の袋を破ると茶色の塊が出てきた
迷わず口に放り込む
甘い
コーヒーの苦味で目が覚める、なんてことはない
相変わらず朝の眠気はじっとりと紫原の体中に絡み付いている
「敦、今日部活のあとで何か甘いもの食べに行こうよ」
「うん」
夏休み
バッシュと着がえとタオルと財布と家鍵
鞄にそのほかのものは必要ない
お菓子は氷室が持ってくる
ほかは、必要ない
「室ちん、飴もいっこちょうだい」
「一個といわずあげるけど、練習中に食べて舌を噛んだりしないでね?」
蝉が鳴いている
夏休みだ
【明確な疑問】
だるい、おなかすいた
の、一言で、紫原は体育館の外に追い出された
紫原にどうこう言うことはできないものの、目の前でサボられるのはモチベーションに影響する
周囲のメンバーからすれば仕方のない措置だ
紫原は大手を振ってサボることができるので、異論はない
ただ、日のあたる場所でだらだらするわけにはいかず、日陰を捜さねばならない
ぼんやりとどこを見ているか分からない瞳を左右に揺らしながら紫原は歩いた
校庭の端の水飲み場が日陰になっているのを見つけて、校庭から見えない場所に座り込んだ
背を預けたコンクリートがひんやりと心地よい
ポケットを探ると朝もらった飴玉がみっつ出てきた
コートに持ってくるなとは言われなかった
練習中に食べるなという言いつけは守った
躊躇いなく飴玉の袋を破って口の中に放り込んだ
披露した身体に糖分がじわりと沁みこんだ
汗をかいて水分がやや不足している口の中に、飴玉はべたべた張り付く
だが、紫原は気にしない
必要であれば水道の水を飲めばいいのだが、立ち上がるのも手間だ
蝉が五月蝿く鳴いている
まるで耳元で騒がれているかのようだ
紫原は耳をふさいだ
蝉が少し遠くなる
(べつに、おなかすいたって言わなかった)
(エスパー?)
紫原は、飴の甘さから朝方の氷室の行動を思い出した
空腹を訴えたわけでも、眠いだるいと愚痴を言ったわけでもない
ならば、なぜ氷室は紫原に飴玉を与えたのか?
何も言わずに、氷室は紫原が欲しいと思うタイミングで飴を与えたのか
(飴が欲しいとは思わなかったけど、何か食べたかった)
(…エスパー?)
紫原にその答えは分からない
理解しがたい
自分で食べれば良いのに、なぜそれを人にくれてやるのか
人になにかを与えるのが好きなのだろうか?
確かに、氷室は面倒見が良い
なんやかやと世話を焼きたくなるタイプの人間であることは分かる
そういう人間は中学時代の紫原の近くにもいた
だが、彼は人にものをやったりはしなかった
ひとつ、考えられるのは、「ものを人にあげる」ことが好きということだ
そういう人間はきっといる
「俺は人に何かをやるのが好きだ」と自分で言う人間を見たことはないが、きっといるのだろうと紫原も思う
しかし、それにしても疑問は残る
なぜ、氷室は紫原が欲しいと思うタイミングで飴を与えたのか
考えれば考えるほど、疑問は膨らむ
この世に甘いものはたくさんあるのに、何故氷室はコーヒー飴を持っていたのだろう
紫原が前夜に漫画を読んで寝る時間が減ると予想していたのだろうか
こうやってサボることも見越して、事前に飴玉を多く与えていたのだろうか
(エスパー…)
(どうして室ちんはエスパーなんだろう…)
いつの間にか口の中の飴玉がなくなっていた
紫原は躊躇わずに2つ目を口の中に放り込む
もしも、氷室がエスパーだとしたら
(俺の考えてること、室ちんは全部分かるのかな?)